
『石井のおとうさんありがとう』(2004・日本)
現代ぷろだくしょんの山田火砂子監督作品。
この現代ぷろだくしょんは、
小規模ながらも歴史ある映画会社で、
社会派の映画を中心に、
ミニシアターを中心に上映しているのが特徴である。
主演の松平健を始めとして、
永作博美、辰巳琢郎、竹下恵子、大和田伸也、ケーシー高峰など
そうそうたる俳優陣が揃っている。
「石井のおとうさん」とは、
明治時代に日本で初めて孤児院を創設した石井十次のことで、
「児童福祉の父」と呼ばれ、岡山四聖人の一人とされている人物である。
岡山四聖人は、石井十次のほかに、
「感化事業の父」留岡幸助、
日本人初の救世軍士官となった山室軍平、
「岡山博愛会」を設立したアリス・ペティ・アダムスがいる。
映画の冒頭はブラジルの日本人街から始まる。
日系ブラジル人のヨーコが、
日本人のブラジル移民であった祖父から
今わの際に一枚の写真が手渡される。
そこに書かれていた「石井のおとうさんありがとう」の文字。
「石井のおとうさん」とは誰なのか・・・
ヨーコはそのルーツを探るために日本へ飛ぶ。
石井十次は宮崎県出身で、
医師を志して岡山へとやってくる。
そこで、孤児を預かることになり育てる決心をする。
そして医師の道を諦め、孤児救済に一生を捧げる。
この映画を見て感じたことは、
何かを成し遂げる人とは、
あれこれ考える前に、
行動に移す人なのだと。
それは単に破天荒なだけなのかもしれない。
現実に、彼の活動を批判するものも当時は多かった。
しかし、彼にとって幸運だったのは、
大原孫三郎(大原財閥の創始者でクラボウ、クラレ、中国銀行、中国電力、倉敷中央病院等の前身を作った人物)や、
ジェイムス・ペティ(岡山基督教会の宣教師で、アリス・ぺティ・アダムスの従兄弟)といった有力支援者がいたこと。
それは彼の私利私欲の無いひたむきな行動に共感したからだろう。
たった一人の孤児を引き受けたことから始まる孤児救済は、
岡山孤児院を舞台に約20年で1000人を超える収容者がいたとか。
明治25年の濃尾地震による被災孤児や、
日露戦争による戦争孤児なども積極的に引き受けた。
その後、手狭になった岡山孤児院から
拠点を全面的に宮崎の茶臼原に移すが、
持病が悪化して茶臼原で亡くなった。
「社会福祉」の概念すら無かった時代に、
児童福祉の先駆者となった石井十次。
岡山孤児院はすでに存在しないが、
彼の思いは時代を超えて今も受け継がれている。

岡山孤児院の家族舎として唯一現存する一棟は、
門田本町に移転されて、当時の趣を残している。



